うつりというもの
理恵の首はお堂を出ることなく、ただこちらを見つめていた。

3人で経を唱えていると、お札がさらにその光を増した。

その光が最大となったところで、慈空は素早くお堂の階段を駆け上り、理恵の首にお札を貼り付けようとした。

だが、その首にお札が届かなかった。

首と慈空の間には何かの圧力があった。

貼り付けようとする慈空の力と、それを押し戻そうとする力。

首はただ虚ろに慈空を見ている。

その感覚に、慈空は戸惑った。

だが、更に念と力を込め、お札を押し込んだ。

後少しで首に触れる。


「邪魔をするのか?」

その突然の声と顔に合わない声色に慈空は怯んだ。

数歩後ろに飛ばされた。

「むう!」

慈空は気を取り直し、再び念と力を込め、お札を突き出す右手を錫杖を持った左手で押さえ一歩ずつ前に出た。

慈延と慈海も更に念を込め、経を唱えた。


「お前はわらわの邪魔をするのか?」

声色と言い方は変わらず静かだったが、抗いがたい深いものがあった。

それなのに、この状況であっても、まだ妖気を感じなかった。

なぜだ?

慈空達は戸惑っていた。
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