うつりというもの
「邪魔などではない!お前を封じるだけだ!」

慈空は叫んだ。

「邪魔する者は許さぬ」

静かにそれは言った。

その瞬間、何かが左右に動き、慈空の動きが止まった。


「兄者!」

「慈空兄!」

叫んだ二人の前に何かが転がってきた。

それは、カッと目を見開いた慈空の首だった。

「!!」

残った身体は後ろにゆっくりと倒れて、階段を落ちてきた。

さすがに慈延と慈海が怯んだ。

理恵の首が、ふわりと慈空の身体に近付いたが、その表情は少し歪み、そのまま、またお堂の入り口に戻っていった。


「やはり、男の身体は合わぬ」

それはそう言った。


「俺が行く」

慈延が、兄弟子を亡くした悲しみを抑えながら言った。

「慈延兄!」

「俺がダメなら、慈海、お前は逃げろ。住職達に伝えねばならん」

「それはできません!私も一緒に!」

「お前までここで果てたら、この状況を誰が伝える!他の誰かにあれの退治を任せねばならんのだぞ!」

「慈延兄…」

「離れていろ。ダメならすぐにここを去れ!」


慈延は、慈空の右手にあるお札を手に取った。

「お前もわらわの邪魔をするのか?」

「邪魔ではない。ただ、すべき事をするだけだ」

慈延は、お札を手にお堂の階段を駆け上がった。

そして、念を込めお札を首に突き出した。

やはり、首までの間に何かがある様に押し返される。

だが、思いが勝ったのか、お札が首に届いた。

その瞬間、お札が更に光を放ち、光の輪がお札を中心に弾ける様に広がった。
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