うつりというもの
「なんとひどい事をする…」

その声に、慈延と慈海は後ろに飛び退った。

理恵の首がまた、宙に浮いた。

そして、貼り付けたお札がハラリと剥がれると、落ちる途中で一瞬のうちに燃えた。


「邪魔をする者は許さぬ」


「慈海!逃げろ!」

慈延が慈海を突き飛ばした。

「うぐっ!」

慈延が胸を押さえて倒れるのを堪えていた。

「慈延兄!」

「ぐふうっ…」

慈延は血を吐き、その場で倒れ絶命した。

慈海は錫杖を構えて戦おうとしたが、

「くそっ!」

諦めた。

自分にできる事は、もう何もなかった。

お堂に背を向けると竹林の外へと走った。


「くそうっ!!」

彼は竹林を飛び出しても後ろを見ずに、永凛寺の方へとただ走った。

結局、慈海の後を追うものはなかった。

そして、慈海の走り去る足音と錫杖の金輪の鳴る音が聞こえなくなった頃、また虫達が騒がしく鳴き始めたのだった。
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