うつりというもの
「もう、何も手立てはないんでしょうか?」

遥香は話を逸らす意味もあり、そう言った。

その視線の先の住職は、何も答えず、腕組みをした。

遥香は、それを見て、やはり、もうあの女の子に頼るしかないと心を決めた。


「ただ、慈海殿が一つ気になる事を言っていました」

「何です?」

教授が言った。

みんなも住職を見た。

「霊気は感じたが、最後まで凶々しさというか、まるで妖気を感じなかったと」

「え?どういう意味です?」

「妖怪や悪霊の類いなら、感じるものを、一切感じなかった…ということです」

「じゃあ、うつりは一体何なんです?」

「もしかして…」

住職がその先に言った言葉に、みんなが驚いた。

それを聞いて、教授はある事を思い出した。


「広田さんの資料に、ある言葉が書かれていました」

「何と?」

住職が聞いた。

「『うつりには悪気がない。だから恐ろしい。悪気はないが、邪魔をすると殺される』という言葉です。やっとその意味がわかった気がします」

教授は言った。

「なるほど…」

住職も唸った。

「今回はうつりにとって『邪魔をした』から殺されたという事だと思います。結界は張られた訳ですし…しばらく、様子を見ましょう」

教授はそう言ってみんなを見た。

そこにいる者は、頷くしかなかった。
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