うつりというもの
東武蔵大学園山教授研究室


午後の誰もいない研究室で、しばらく電話が鳴っていた。

教授は新学期最初の講義中だった。

研究室の電話は留守番電話の機能はなかったので、電話はそのまま切れた。


電話を架けた山科聡子は、教授からもらった名刺を見ながら、溜め息を吐いた。

「そういえば今日から新学期だから、講義中なのかしらね」

聡子は、時間を置いてまた架けることにした。

奥へ戻ろうとすると、電話が鳴った。

「はいはい、山科でございます。…あ、知美ちゃん?久しぶりねぇ。どうしたの?…え?博子が倒れた?…うん、…うん、…分かったわ。すぐに病院行くから。…うん、後でね」

それは姪から妹が倒れたという連絡だった。

「晶子!晶子!」

聡子は慌てて娘を呼んだ。
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