うつりというもの
怖さよりも、少し腹が立ってきた。


「そのために、人を殺しているの?」

遥香はうつりを睨みつけた。

「殺す?わらわはただ身体を見つけてやっているだけじゃ」

「それは結局、殺すってことでしょ!」

「そなたの言うことがよくわからぬ。あの者等は、身体が見つかった時はほんに喜んでおった」

「それは違うから!身体を見つけた人達は、その後どうなったの?私の母は、柳さんの身体に載った後、ただの頭蓋骨になっただけ…あなたが殺したの!あなたが、私から母を奪ったのよ!」

「そなたの母のことは分かっている。だから、そなたにあの者からの言伝(ことづて)を伝えたであろう」

「言伝?」

「そうじゃ。橋の上でわらわに会った時の事を娘に伝えて欲しいと言ったので、そなたに見せたであろう?」

遥香は東北から帰ってきた日に、お風呂で見た夢を思い出した。

そして、母が言った言葉の意味が分かった。

『その女の子がうつり』

きっと、そんなことを言ったのだ。


遥香は気を取り直した。

「今、『橋の上であなたに会った時の事を』って言ったよね?そうよ。その時よ!あなたがその時、私の母を殺したのよ!!」

遥香はあらためて睨みつけた。
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