うつりというもの
「あの時の橋の上で…?そなたが言う、殺すとはどういうことじゃ?」

「人を死なせること!もうこの世から居なくなること!死んだ人とはもう会えないの!!」

「わらわは、首をうつしてやっていただけじゃが……わらわが、人を殺していたと?」

「そうよ!!その時首をうつされた方は死んでるの!!それに、邪魔者は許さぬって?違う!!あなたは大切な人を守ろうとする人達を邪魔者って言って殺したの!!私達から見れば、あなたの方が邪魔者なの!!何が罰よ!!罰が当たるなら、あなたの方よ!!これ以上、大切な人達を奪わないで!!」

うつりは、遥香の剣幕に、何かに打たれた様に、その動きを止めた。


「わらわは、そなたの大切なものを奪ってしまったのか?」

「そうよ!」


「わらわは、何か間違っておったのか?」


うつりは、叱られた子供のような声で、円らな瞳のまま遥香を見た。


「間違ってた」

遥香は睨みつけたままだが、少し力を抜いて言った。


「わらわは、良かれと思うてしておった…」

「それは…わかるけど…」


「わらわは、間違っておったのか…」

そう言ったうつりの表情は、叱られてすごく気落ちした子供のそれだった。

「他の人を犠牲にして、誰かを救っても、それは本当の救いじゃないから」

うつりが遥香を見た。


「わらわは、これからどうすればよいのじゃ?」

そして、母にすがるような言い方だった。

「あなたは、神なんでしょ?自分が祀られている社があるんじゃないの?そこへ戻って。そして、みんなの本当の願いを聞いて」

うつりは黙ったまま考え込んでいる風だった。


「そうか…、そうじゃな。長く、戻らず放っておいてしまった」

「だったら、そこへお戻りください」

遥香は言葉遣いを変えた。


「…分かった」

うつりはゆっくりと言った。
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