うつりというもの
「この者は、どうするのじゃ。このままでは可哀想じゃ」

うつりは手に持つ田島理恵の首を見た。

「私達で供養しますから、心配しないでお戻りください」

「そうか。頼む」

うつりは田島理恵の首を遥香に差し出した。

遥香は一瞬気が遠くなったが、あきらめて、階段を上るとそれを受け取った。

手に当たる髪の毛と肌の感覚がまるで生きている様だった。

そして、そのまま後ろ向きに下に降りた。


うつりはしばらく遥香を見つめていた。

そして、もう一度「頼む」と言うと、その身体が光に包まれて、飛散する様に消え始めた。

「あの、あなたのお名前は?」

「わらわは陸奥那美姫神である」

消えた後の空間にその声が残った。


「むつなみひめのかみ…本当に神様だったんだ…」

遥香はしばらくそのままでいたが、手に持つ物の事を思い出して急に腰が抜けて、地面に座り込んだ。

荒い息の中で、頭は真っ白だった。

「私、神様を怒鳴っちゃった…」


どれだけ、そこでそうしていたのか分からなかったが、

「遥香君!」

「渕上さん!」

教授と赤井の大きな声で現実に戻った。

そして、遥香は気を失った。
< 173 / 190 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop