うつりというもの
7月初め 世田谷区某所マンション


柳静香は、派遣の契約を切られたばかりで、する事もなく、その日は映画を見て帰ってきた。

バッグをリビングのソファに置いた後、着替えようと寝室に入った。

壁のスイッチを入れたが明かりは点かなかった。

「あれ?元を消してたっけ?」

静香は、デザイン性のあるアンティーク調のライトを使っていた。

ライトから下がるチェーンを引こうと部屋の真ん中に行くと、足に何かが当たった。

足元を見ると、ほぼ真っ暗な中、ボールの様な物があった。

「え?何?」

静香はしゃがむと、それを持ち上げようとした。

それを触った瞬間、

「いやっ!!」

その感触に思わず手を離した。

「な、何!?何これ!?」

慌てて明かりを点けようとチェーンを手探りで探した。

手に触らないので、上を向いて微かに見えたチェーンに手を伸ばした。

でも、それを触れなかった。

触ろうとした時には、既に首がなかった。

静香の身体はゆっくりと後ろ向きに倒れた。

その倒れた身体に、さっき静香が放った渕上小百合の首がふわりと浮いてきて、ゆっくりとあるべき場所に収まった。
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