うつりというもの
少しして、小百合が目を開けた。

小百合となった静香の身体は、ゆっくりと起き上がった。

静香の首を抱えたうつりが振り返ると、それは部屋を出て行くところだった。

「どこへ行く?」

小百合はふらふらとそのまま外に出て行った。

「どこに行くのじゃ?」

小百合は何も答えず、振り向きもせずに、一心不乱にどこかへ行こうとしていた。

エレベーターにも乗り、下へ降りて行った。

うつりが白いワンピースの後ろを掴み、止めようとしたが、止まることはなかった。

首が身体を見つけると、それで終わりのはずだった。

「どこに行くのじゃ?もうその身体は保たぬ」

うつりはそう言いながら、小百合の後を付いて行った。


だが、やはり無理だったようだった。

小百合の歩き方がゆっくりとなり、ふらつきも大きくなった。

そして、とうとう立ち止まった。

「よくぞ、ここまで…」

小百合の意思が途切れかけたので、うつりはやっと彼女の身体を操れた。

すぐ横にちょうど人の気配のない家があった。

「誰もおらぬな。ここでよい」

うつりは小百合をその家に入らせた。

一番奥の部屋に行かせると、そこで終わりにさせた。

小百合は虚ろな目でうつりを見ていた。

「何かして欲しいのか?」

うつりに聞かれて、小百合の口がゆっくりと動いた。

「わかった。伝えよう」

小百合は、それを聞くと、何か安堵したようなやわらかな表情で目を閉じた。

うつりは、優しく微笑んでいた。

「ゆるりと休むがよい」

小百合は、返事をしたようにも見えた。
< 176 / 190 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop