うつりというもの
世田谷慶成会病院


遥香が気が付くと、目の前には白い天井が見えた。

「お、気が付いたか」

その言葉に顔を向けると、ベッドの横に教授と赤井が座っていた。

遥香はお堂から救急車で世田谷慶成会病院に運ばれていた。


「一体、何があった。女の子はどうした」

教授が聞くと、赤井もその答えを待つように見た。

「あの子が、やっぱりうつりでした」

そう言うと、遥香は、うつりとのうろ覚えのやり取りを話した。


「それで、田島さんの首を置いて消えたのか?」

「ええ」

「本当に、それでうつりを説得できたということですかね?」

赤井が、信じられないという表情で教授に聞いた。

「分からないが、次の身体に載せないまま、あの首を置いていったのだから、そう考えるしか…」

教授もさすがに戸惑っていた。


「そうですね…」

赤井はそう言った後、遥香を少し睨んだ。

「なぜ、その女の子の事を黙っていたんですか?」

赤井は少し怒っていた。

「ごめんなさい。いろいろ心配すると思ったので」

「当たり前ですよ。逆にどれだけ心配したと思っているんですか。一人で解決しようなんて、ほんとに君は…」

「ごめんなさい」

遥香はベッドに寝たまま、頭を下げる風にした。


「まあ、無事で良かった」

そう言って赤井は微笑んだ。
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