うつりというもの
第2章
翌日 世田谷区某所


「主任こっちです」

「ああ…」

世田谷西署刑事課強行犯係の係員三田村に呼ばれて同係主任の赤井は、気怠そうに、彼が手招きしている家に向かった。

その家は廃屋と化した二階建ての住宅だった。

中に入る前にもう一度、朝早くからどんよりとしている空を見上げた。

纏わりつくような湿気がこの後の雨を予感させた。

「すぐ終わるといいんだけどな」

短めだが、少しボサッとした髪を掻きながら、赤井が呟いた。

「主任、何やってるんですか」

三田村が白い手袋をはめた手をさっきより大きく手招きした。

その白い色が灰色の景色の中で、唯一鮮やかで、それがここを日常ではないと感じさせた。

「…はいはい」

赤井は溜め息をつきながら、入り口で立って敬礼している制服警官に軽く手を挙げると、その家の中に入った。


今朝早く、犬を連れて近所を散歩していた住民が、女性の遺体を発見し通報してきた。

この家の前を通ると、急に犬が吠え始めたらしい。

いつもは素通りの場所で吠えるから気になって中に入ってみると、遺体を発見したという訳だ。
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