うつりというもの
教授は、忍が写真を撮っているのを見ていて、その向こうの蔵が目に入ったが、ふと気が付いた。

「奥さん」

「はい?」

「あの蔵ですけど…、割と新しいんですか?」

教授は指差しながら冬子を見た。

「え?見てのとおり、こっちの建物と同じくらい古いですけど?」

冬子は質問の意味が分からずに首を傾げた。

「じゃあ、何で『うつり除け』がないんですか?」

「ああ…」

「何かから守るなら蔵の方じゃないんですか?」

「まあ、そうですよね。でもうつり除けは蔵には元々無いみたいですね。そういえば、人の住む家の方だけなんですよね」

「え?…人の住む家だけ?」

遥香はその言葉を繰り返した。

その言葉に、遥香は背筋がぞくっとした。

いや、教授も、季世恵さん、そして、撮るのを止めた忍もだった。

なぜ『うつり』を調べているのか、本当の理由を知らない冬子と森下には、その時の恐ろしさが分かるはずがなかった。


教授がもう少し話を聞いている時に、遥香は周りを少し捜してみた。

すると、入り口の門の所から覗く白い服の女の子を見つけた。

どうやらここまでも付いて来たらしい。

遥香は他の人に気付かれないように手招いてみたが、女の子は見ているだけだった。

「どうした?」

教授が遥香を見た。

「あ、いえ、別に」

遥香は軽く首を振った。
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