うつりというもの
第5章
世田谷区某所小木家


蝉の鳴き声が激しい真夏日となった、その日の午後2時。

黄色い立入禁止のテープが張られて、その外側には近所の人々が集まっていた。

数台停まった警察車両は赤灯を回し続けて、その周辺で何人もの警察官が動き回っていた。


「ふざけんな!ふざけんなよ!何なんだよ!」

その2階の寝室では、遺体を見た一人の捜査員が頭を抱えながら壁際に座り込んで叫んでいた。

最初の捜査会議の時、管理官に意見した捜査一課の池田だった。

その狼狽した姿を、赤井と三田村が無表情で見ていた。

「また、見るとはな…」

赤井は、池田の事より、自分がまたアレを見た事に意識を取られていた。


小木美智子からの通報に対応した警官は、翌日、交代の警官に美智子が被害届を出しに来ると引き継いでいたが、さらにその二日後の今朝、非番を終えて交代した時にそれが未処理になっている事に気が付いた。

気になって、小木家を訪ねると、一昨日からの新聞がそのままになっていた。

もちろん、チャイムを押しても反応はなかった。

電話をしても出なかった。

その警官は通報時の電話をセンターに照会し、それがケータイだったのでその番号にも架けた。

すると、2階からその着信音が鳴ったのが微かに聞こえたのだ。

鳴らし続けたが、それはただ鳴りっぱなしだった。

署に連絡し、許可を得ると、応援に駆けつけたもう一人の警官と共に、玄関の鍵を開けて中を捜索し、そして、2階の寝室で遺体を見つけたのだった。

だが、問題はその遺体の身元だった。

壁に背中を預け、足を投げ出して座るように死んでいた遺体は、小木美智子ではなかった。

それは、柳静香だった。

それで、池田や赤井達がここに駆けつけたのだ。

捜査一課員がいることで、赤井と三田村達所轄の捜査員は、一歩引いた場所で見ていた。

率先して遺体の状況を確認しようとした池田が、その後に起こる事を間近で見てしまったのだ。
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