うつりというもの

秋田県藤実町(ふじみまち)役場


遥香達は、青森県内の郷土資料館や郷土史を専攻している地元大学の教授を訪ねたりしたが、何の成果もなく、今は秋田県の藤実町役場に来ていた。

ここの教育委員会にも教授が連絡を入れていた。

藤実町役場は2階建で、西川戸町役場よりもさらに小ぢんまりとしていた。

車を役場の駐車場に停めた後、教授達は案内板を見て、2階の一番奥の教育委員会に向かった。

ここでは部屋の間仕切りなど無く、カウンターで仕切られた向こう側がそのまま事務室になっていた。

だから、2階に上がって4人で奥の方に歩いて行くと、すぐに立ち上がる職員がいた。

「園山教授ですか?」

「ええ、園山です」

「ああ、ようこそ。生涯学習文化財係の橋本と言います」

「よろしくお願いします」

「どうぞどうぞ」

橋本は4人を応接セットの方に案内した。

「お忙しいところ、お世話になります」

座ったところで、教授が頭を下げた。

「いえいえ」

40代後半と思われる橋本は軽く手を振った。

「で、早速なんですが、お願いしていた件は何かありますか?」

「うつり塚ですよね…」

「はい」

「電話をもらっていろいろ探してみたんですが、その名前の由来が分かるものはちょっと見つかりませんでした」

「そうですかぁ…。まあ、それはそれとして、とりあえず現地を見たいんですが」

「あと、それなんですが…」

「え?何か問題が?」

「ええ、ちょっと」

塚とかなら普通にその辺で野ざらしだろうから、ただ見るのに問題があるとは思わなかった。

橋本が言うには、そこは入り口に鍵が掛かっていて、その鍵を管理していたお寺が、明治の後期に火事で全焼して住職も亡くなり、なぜかその後再建もされず、鍵の行方も分からないらしい。
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