うつりというもの

深い森の中という感じの薄暗い山道を歩いて、その30分が経つ頃。

「遥香君、どうした?」

教授が具合が悪そうな遥香を見た。

「ちょっと、例の感覚が…」

「え?もう?大丈夫か?」

「まあ、もう少しは」

「じゃあ、ゆっくりでいいから無理するな」

「はい」

「季世恵、遥香君に付き添っててくれ」

季世恵が少し戻って来た。

「渕上さん、大丈夫?」

「はい」

それを見て、教授と忍は少し先を歩く橋本を追った。

「どうかしました?」

その足音で橋本が振り返った。

「いや、大丈夫」

教授はニコッと笑った。


もう少し歩いたところで、「あ、あれですよ」と、橋本が鬱蒼とした山道の先を指差した。

その先には、崖の前に少し広くなった空き地があって、その崖に柵の様なものがされた洞穴があった。

周りは生い茂った木々で少し暗い感じだった。

「あの洞穴ですか?塚が?」

「ああ、あの中にあるらしいです」

「え?」

「まあ、地元では誰も見た者がいないので」

橋本が苦笑した。

その空き地に入ろうとした時だった。

遥香が教授の袖を掴んだ。

「ん?どうした?」

遥香は何かに耐える表情で唇を噛み締めながら首を振った。

「…ヤバイか?」

遥香は首を大きく縦に振った。

彼女は、胸が押さえ付けられる感覚に声が出せずにいた。

「あ、あの…大丈夫なんですか?」

さすがに橋本が怯え始めた。

「君達はここで待っててくれ」

教授が言った。

「僕も行きます」

忍が教授を見た。

忍も少し霊感があり、肌に感じていたが、遥香のために自分が行くしかないと思っていた。

教授は頷くと、「行くか」と歩き始めた。

「あの~、中には入れませんからね。それに塚自体もかなり奥らしいので見えないですよ」

橋本が教授に声を掛けた。

「わかった」

教授は歩きながら軽く手を挙げた。
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