うつりというもの
「確かに、これ、かなり前に壊されていますね」

橋本が鍵を見て言った。

「だろ?ほらみろ、やっぱり俺じゃないじゃないか」

遥香と季世恵が着いた時、そんな会話をしていた。


その横を女の子が中に入って行った。

「あの、中に入れるみたいですよ」

遥香がみんなに言った。

「いや、でも、木の格子の方の鍵が掛かってるし」

忍がライトでその鍵のところを照らした。

「あれも壊れてませんか?」

女の子がその木の格子の向こうで手招いているので、遥香はそう言ってみた。

遥香がそう言うので、忍が中に入って鍵を確かめた。

「あ、やっぱり壊されてる。開くわ」

そう言って忍が木の扉を開けた。

「えっと、いやぁ、その~、ここは一応私有地ですので勝手に入るわけにはいかないんですよね…」

橋本が困ったように言った。

「誰がここを引き継いでるのかわからなくて、調査の申し入れもできなかったというところもあるんですけど、結果的にわからないからと鍵を壊すわけにもいかないし…」

「もう壊れてるから」

教授が鍵を指差した。

「いや、でも…」

「調査したいんじゃないの?」

「いや、それもちょっと怖いので…」

「あ、なるほど」

教授は橋本の本音に苦笑した。

「じゃあ、仮に許可があってもここを調査することはなかった…ということだろ?」

「…まあ」

「じゃあ、いいじゃないか。俺が調べてきてやるから」

「………」

「それに、中を荒らされてたらどうするんだ?放って置いていいのか?」

「わかりましたよ…」

橋本が諦めて言った。

「さあ、入るぞ」

「…後で、写真くださいね」

橋本が忍を見た。

「任せて」

忍が親指を立てた。
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