うつりというもの
洞穴は、木の格子柵から10mくらいで少し右に曲がっていった。

そして、さらに左に曲がったりしながら、約50mくらい入ったところで行き止まりだった。

「教授、あれ」

遥香が指差した。

その行き止まりが少し広い場所になっていて、その真ん中に塚があった。

こんもりと土が盛り上がっていて、その上に小さな祠が載せられていた。

それを囲む様に木の柱が四隅に立てられていて、それにはしめ縄が張られていたはずだが、それは朽ちて落ちていた。

その向こうに女の子がこっちを向いて立っていたが、それが見えるのは遥香だけだった。

「しめ縄は切れているが、特に荒らされているわけではないな」

「そうですね」

橋本が少し自分の仕事を思い出した様だ。

「これだと、やっぱり首塚なんですかね?」

橋本が教授に聞いた。

「多分な…。掘ってみるか?」

教授が橋本を見た。

「だめですよ、先生」

遥香が言った。

「何でだ?」

「ここ、やっぱり首塚らしいです。身体がない霊がたくさんいるみたいなので…」

「え?分かるのか?」

「はい。するなら供養の方が必要ですね。お寺が焼失して以来、供養されていないから、霊が溢れているんだと思います」

遥香は女の子の霊から聞いたとは隠して言った。
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