うつりというもの
役場に戻ると、土埃に汚れて、疲れ果てている彼等を見て大石がぽかんとしながらもお茶を出してくれた。


「忍。写真を見せてくれるか」

しばらくして、少し気力を取り戻したところで、教授が言った。

「あ、はい」

忍は、たった1枚だけ撮影した、あの写真をカメラのモニターに再生した。

みんなで覗き込んだが、そこには塚と、その後ろに白い靄(もや)が写っているだけだった。

「この白いのがその女の子なのか…」

「あまり人の形というわけじゃないですが、大きさは確かに小さな女の子くらいですかね」

忍が少し拡大しながら言った。

「遥香君。これ、君にも白い靄に見えるのか?」

「ええ、これだと私にもただの白い靄ですね」

「そっか」

「でも、確かにいたのね…」

季世恵さんが怯えた様に言った。

遥香は苦笑するしかなかった。

「で、この写真いるか?」

教授が橋本を見た。

「…いえ、いいです」

「だよな」

そして、あの洞穴は自分達が行った時には既に崩れていたことにした。
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