うつりというもの
「一つ気になったことがあるんだ」

教授がみんなを見た。

「何です?」

遥香が代表して答えた。

「あんな強い霊気があるとすれば、あれは多分、この辺の首塚を集めて作られた物じゃないかと思うんだ」

「可能性はありますね。他にないんですもんね」

「だろ?それなのに、だ」

教授は一旦言葉を切った。

「あの格子の柵だよ。お札も貼られた形跡もなかった」

「え?それが何か?」

「普通なら、霊体ならお札とかで封印するとか考えるんじゃないのか?」

「あ、はい。…普通なら」

「だから、あの格子の柵で防ごうとしたのは、実体のある何か…ということだろ?」

「え、えっと…」

「わからないか?そんな霊達より、実体のある何かの方が、怖いということなんじゃないか?」

そこにいた全員がぞくっと背中に冷たいものを感じた。

あんなところから出てくる、

『実体のある何か』

「それが、『うつり』ですか…」

遥香は虚ろに呟いた。

「そうだろうな。実体がある何かだから、あのサイズの格子でうつり除けを作るんだ」

みんなはそれが何かが既に想像できていて、顔を見合わせた。

「そう。それは、きっと首だ」

季世恵はその瞬間、居ないのと同じになった。

「園山教授、そんな恐ろしいものがこの町に?」

橋本が戸惑っていた。

「まだ調べているところだから、はっきりとは言えないが、君もあのうつり塚がおかしいと思ったろ?それに、さっき起きた事も…」

「ええ…」

「ここに来る前に西川戸町では、うつり除けという格子窓を見た。話の上では、この辺りではどこでもあったらしい」

「うつり除けですか?聞いたことがないですけど」

「そうなんだよ。記録にもほとんど残らないほど、廃れたものなのか、あえて残されていないのか…それもわからないが」

「もう少し調べてみないとですね」

遥香が言った。

「ああ、そうだな。というわけで、次は岩手、宮城のうつり塚を調べてみるよ」

「そうですか」

「君も何か気付いたことがあれば連絡してくれ」

「わかりました」

橋本は頷いた。
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