うつりというもの
第6章
世田谷西署捜査本部
小木美智子の遺体が見つかった日の夜の捜査会議。
「おい、そのビデオを流せ」
真田管理官がプロジェクター機器の所の鑑識課員を見た。
「はい」
その鑑識課員がもう一人に目配せすると、室内の明かりが消された。
会議室前方の角に立てられたスクリーンに映像が映り始めた。
まずは室内が広く映る映像が、段々とその遺体をクローズアップし始めた。
手前に池田と松田が映っていた。
ちょうど顔が映る時に池田が重なったので、カメラは右に少しずれた。
そこで顔が映るはずだったが、なぜかその顔の部分が黒い靄(もや)が掛かったようになっていた。
「おい、誰がモザイク処理しろと言った」
真田が鑑識課員を睨んだ。
「いえ、自分は何にもしていません!」
「じゃあ、あの顔を隠してるのは何だよ?」
「な、何でしょう?撮った後に確認した時はちゃんと撮れてましたが…」
鑑識課員が首を傾げた時だった。
映像が乱れ始めた。
「おい、どうした?」
「いえ、分かりません!え?何だこれ」
その鑑識課員は停止ボタンを押しているようだったが、映像は止まらず、そのまま砂嵐状態になった。
彼はしばらく操作していたが、
「すみません…映像が消えています…」
消え入るように言った。
「写真は?」
「それが、最初の方は黒く潰れていて、写っているのはその後の状態のだけでして…」
鑑識課員がそう言った後、頭を下げた。
証拠の写真はあえてフィルムで撮る。
それでもダメだったということだ。
真田は深く溜め息を吐いた。
赤井と三田村は顔を見合わせた。
「結局、証明にはなりませんでしたね…」
三田村が小声で言った。
「まあ、そうだな」
赤井はもう、普通の殺人事件とは思っていなくて、こういうのも有りかと思っていた。
これは警察がどうこうできる事件じゃない。
ただ、そういう思いだった。
「でも、あの池田が『はっきり見たんです!』って管理官に訴えたのには笑えました」
赤井もフッと笑った。
小木美智子の遺体が見つかった日の夜の捜査会議。
「おい、そのビデオを流せ」
真田管理官がプロジェクター機器の所の鑑識課員を見た。
「はい」
その鑑識課員がもう一人に目配せすると、室内の明かりが消された。
会議室前方の角に立てられたスクリーンに映像が映り始めた。
まずは室内が広く映る映像が、段々とその遺体をクローズアップし始めた。
手前に池田と松田が映っていた。
ちょうど顔が映る時に池田が重なったので、カメラは右に少しずれた。
そこで顔が映るはずだったが、なぜかその顔の部分が黒い靄(もや)が掛かったようになっていた。
「おい、誰がモザイク処理しろと言った」
真田が鑑識課員を睨んだ。
「いえ、自分は何にもしていません!」
「じゃあ、あの顔を隠してるのは何だよ?」
「な、何でしょう?撮った後に確認した時はちゃんと撮れてましたが…」
鑑識課員が首を傾げた時だった。
映像が乱れ始めた。
「おい、どうした?」
「いえ、分かりません!え?何だこれ」
その鑑識課員は停止ボタンを押しているようだったが、映像は止まらず、そのまま砂嵐状態になった。
彼はしばらく操作していたが、
「すみません…映像が消えています…」
消え入るように言った。
「写真は?」
「それが、最初の方は黒く潰れていて、写っているのはその後の状態のだけでして…」
鑑識課員がそう言った後、頭を下げた。
証拠の写真はあえてフィルムで撮る。
それでもダメだったということだ。
真田は深く溜め息を吐いた。
赤井と三田村は顔を見合わせた。
「結局、証明にはなりませんでしたね…」
三田村が小声で言った。
「まあ、そうだな」
赤井はもう、普通の殺人事件とは思っていなくて、こういうのも有りかと思っていた。
これは警察がどうこうできる事件じゃない。
ただ、そういう思いだった。
「でも、あの池田が『はっきり見たんです!』って管理官に訴えたのには笑えました」
赤井もフッと笑った。