God bless you!~第3話「その価値、1386円なり」
誰か飲んでる?
中間テスト一週間前から、部活は休みになる。
5時間目がいつもより早く終わり、だからといって早速家に帰って試験勉強を始めるほどの焦りはまだ無く、一緒にどっか行こうという彼女も居ない今……自動的に、生徒会室に居る。
そこに、阿木と浅枝が連れ立ってやってきた。
「1年の時の数学の先生が、今の浅枝さんの数学担当だから」
「出題傾向とか聞けるかなーって思ってたら、そこで会っちゃいました」
少々説明的な言い回しにて、ここまでの成り行きを、2人の絶妙なコンビネーションで語られる。いつの間にそんな仲良く打ち解けて。阿木ギョウザに怯えていた人間と同一人物とは思えない。これも、浅枝のチャレンジ&ちゃっかりの結果なのか。想定外だ。
そこに俺も加わって、3人で中間あるあるをやっていた所へ、何故か右川もやってきた。
「あれ?何で居るの?」
じゃないだろ。
「何で、おまえが来るんだよ。何の用で」「はいはい♪ヨウジに用」 「いいから用件を言え」
最後まで言わせないぞ。(俺は自分から〝用事〟とは、絶対に言わない。)
右川は、迷う素振りを見せた。阿木を見つけると、「あ!居たぁ♪」と、馴れ馴れしく、阿木の隣に居座る。言われた阿木は「?」と、怪訝そうに右川の目を覗き込んだ。
そこから無視を決め込んだ阿木は、「1年の共通基本問題は楽勝。応用問題は課題プリントをやっておくと楽勝」 そんな試験あるあるを浅枝に話して聞かせる。右川は、2人の会話には一切加わらず、何が物珍しいのか、部屋の中をキョロキョロと見回していた。……お菓子を探っているのか。追い出す事もしない代わりに相手にもしないと、俺も無視を決め込む。
ふと、
「あのさ、ちょっと聞くけど。もしかして俺のアクエリアス、誰か飲んでる?」
浅枝も阿木も、ポカンと俺の顔を見つめた。浅枝が、「今ですか?」と、テーブル上のアクエリアスを指さすので、「いや、それじゃなくて」と、紛らわしい相棒を、横にずらして。
「あっちの、冷蔵庫の方だけど」
「冷やしてある方ですか?」
「うん。たまに無くなってて。倉庫のストックは減ってないんだけどさ」
「倉庫?」と、聞き返したのは右川だった。俺は松下先輩に頼み込んで、生徒会専用でカギ付き隣室の倉庫にアクエリアスのストックを置かせてもらっているのだが、当然と言えば当然、それは生徒会の面々しか知らない。だからと言って、それを右川なんかに手短に説明してやる必要などない。もちろん無視した……って、浅枝が横から教えちゃってるし。
「あんた、一体どんだけ好きなの。まさか抱いて寝てるの?」
(無視)「実は他にも結構、物が無くなってるんだけど」
「お金?」と、速攻聞き返したのは阿木だった。
「それは大丈夫だった」
生徒会の金庫周りも、当然、調べた。「無くなったのは、クリップとか。そこの洗濯バサミとか、ストローとか、ティッシュとか」
2人共、俺の台詞に沿って、部屋のあちこちを見通す。
右川も一緒になって見ていた。
「そう言えば、いつのまにか消えてるわね」
「ごめんなさい。洗濯バサミもストローも、有った事すら気付きませんでした」
2人が嘘を付いてる様には見えない。
「あんた、もしかしてアギング達を疑ってんの?」
すると、2人同時に、不信の眼差しを俺に向けた。
「そうじゃないけど。もしそうなら……まぁ、そう言ってくれたらいい訳で」
「それってやっぱ疑ってんじゃん」
右川が2人分の脅威を含んで、睨みを利かせる。
「クリップとか、別に学校から貰わなくても、あたし沢山持ってますよ」と、浅枝はカバンの中から〝くまもんクリップ〟を大量に取り出した。どんだけ好きなのか。まさか、くまもんを抱いて寝てるのか。
(なぜ右川は突っ込まないのか。)
「いつも思ってたけど、どうして500ミリに移し替えて飲まないのかしら。2リットルって邪魔じゃない?携帯するには向かないと思うけど」 さらに阿木は続けて、「私達はもちろん、それを持ち歩くような奇特な生徒自体、見掛けた事がないわね。沢村くん以外は」と、俺にも未知の犯人にとっても、納得のいかない事実を突き付けた。
それ以降、少なからず生徒会室は微妙な空気に包まれている。この状況をどうにか打破しようと(?)、最初に口を割ったのは浅枝だった。
「……誰かに、あげちゃったんじゃないですか?どっかの部長さんとか」
「そうね。誰かが捨てたかもしれない。邪魔といえば邪魔だったから」
「そうですよ。きっと、そうですよ」
どうにかこの場を和やかなムードに戻そうとしてか、浅枝はそこでお菓子を取り出す。
案の定、無関係なチビが、それに真っ先に喰い付いた。
「先輩らがいつの間にか処分してました♪なーんだ、みたいなオチか」
「そうね。ストローとかスプーンとかは、3年の荷物置き場に迫ってたし」
「松下さんとか、几帳面な方ですからね」
2人は、右川の言うそれが1番納得いく説明だという結論に、勝手に至った。
そんなら後で先輩に確かめよう……そんな俺の心の声が聞こえたのか、
「わざわざ先輩を疑うような真似はしない方がいいと思うけど。てめー俺達を犯人扱いすんのか!ってドン引きだよ。会長さんとか、アギングどころの睨みじゃ済まないよぉ♪」と、そこで文字通り、阿木に睨まれて、右川は黙った。
憎々しい言い方ではあるが、確かにそれは一理ある。
(後で、こっそり松下先輩に確かめよう)
「ストローとか、使わないまま溜まっちゃいますよね。無くなってスッキリしたなら、良かったじゃないですか」と、温い決着にホッとしたのか、浅枝がここにきてやっとお菓子を口に運ぶ。
「ストローとかは、どうでもいいけど。俺のアクエリアスは……どうしたんだろう」
そこにはまだ決着が付いていない。だがそれも、「自分で飲んで忘れてるとか。気のせいとか」と、面倒くさそうに、阿木に、くくられてしまった。
「1日1本って決めて飲んでるから、ちゃんと残りを把握してたし。忘れる訳がない」と、まだまだ納得が行かない顔をすると、「沢村先輩も几帳面なんですね」 浅枝を怯えさせてしまったか。阿木には、「線引きが厳しいわよね」と、お堅い輩だという烙印まで押されてしまった。
それでも、まだ納得できない。
「だってあれは、俺の金で買って」
だから、クリップとかストローとかと一緒にしてもらっては困ると……そう言いたかった。
「体はデカいのにさ、いつまでも小さい事でブツブツブツブツ。往生際の悪い壁だよね」
阿木と浅枝がプッ!と吹き出す。
いちいちムカつくが、往生際の悪さは……まぁ、その通りだ。
これ以上言えば、また雰囲気が悪くなると思って、もうこの話は終了。
(これも松下先輩に確かめよう)

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