God bless you!~第3話「その価値、1386円なり」
〝重森ヒロム〟
〝重森ヒロム〟
確か、1組。そして吹奏楽部の次期部長と目されている。俺よりも少し背が低い。だが、男子としてそれだけあれば十分だろう。ひょろっとした体型。顔がやけに小さい。その目はいつも神経質そうにキョロキョロと動いて、獲物を探すカマキリを思わせる。周囲を窺って、敵は居ない……あるいは、敵にならない奴らばかりだと認識した途端、その態度は豹変するのだが。
吉森先生の目の前の席に、これ見よがしにドカッと居座り、さっそく挑戦的な態度で、「この大学の過去問、塾でやったばっかりなんですが」と、プリントをつまむ。「同じ所なんて、やる気が出ませんが」と、自分の都合をひけらかした。冷たい空気が辺りを包む。重森は空気を全く読まない。
「気持ちは分かるけど、復習だと思ってやってみて」と、先生は苦笑いで苛立ちを抑える。
教室中、淀んだ空気が流れた。
「……永田が居なくてよかったな」
黒川が、俺ら周辺にだけ聞こえるように呟く。吹奏楽部とバスケ部が犬猿の仲という所にもってきて、暴れ者の永田と陰気な重森とは、もうそれだけで水と油だ。
永田は別の選択授業を選んだ。というか、お互いにそこは牽制しあって、別々の道を。というか、重森の方が格段に成績がいいので、このジャンルにおいて永田は敵ではない。だから自動的に離れる事ができたと言える。
「僕らと一緒でさ、先輩も、ずっと悩まされてきたんだろうな」
バスケ部と吹奏楽部の因縁の戦い。そんな歴史に思いを馳せて、ノリがしみじみと頷いた。
「それも沢村が会長になるまでの我慢だろ。壁に口と権力でもってさ」
黒川の嫌味は別として、「俺は会長選出るって決めてないけど。というか、やらねーよ」
そこだけは言っておきたい。
「問5の因数分解、オレ当たりそうだし。ちょい!ツブ子、やって」
「ノリくーん、答え書いてあげるね♪」と、右川は黒川を無視した。
「右川さん、一歩遅かった。洋士が終わってたから、それ見てもう書いたよ」
「え、俺の?いつの間に。てゆうか、自信ないよ」
その時間、当たる順番に狂いが生じて、問題は黒川には当たらないまま授業は終わった。それなら何の文句も無いはずだが、「何だよぉ。せっかくやったのにさ」と、何故か立ちあがってまで、吉森先生に噛みついている。ノリと右川が、顔を見合せて、ククク♪と笑った。そこからまたノリ経由で、俺に紙が回って来る。
「あのさ、別に俺を仲間に入れてくれなくても、いいんだって」
これはノリ的に、どういう気の遣いようなのか。
成り行き上、仕方なく開いて見るけど。
〝黒ちゃんはツンデレ♪好きな女には素直になれないタイプ♪〟とある。
そこに別のグループからだと、これまた別の紙が回って来た。それを何の確認もなく、黒川が開く。
クッ!と笑って、俺の元に回してきた。「だから、俺にはいいって」
成り行き上、仕方なく開いて見るけど。
〝永田に彼女デキた (゜-゜) 1年のバスケのコ。〝ともちん〟に似てるんだって (#^.^#) 〟
思わず声を上げそうになった。(相手が、ともちんに似てるから、ではない)
これが本当なら、神が居るかもしれない。永田は出来たばかりの彼女に夢中。吹奏楽部なんて、もうどうでもいい、何でもない事だと……あのバカが落ち着いてくれるなら、言う事ない。
選択授業が終わって昼休み。
さっそく生徒会室に飛び込んで、立ち上げたパソコンから予算委員会議事録を出力していた。「お昼にコピーして配るから」と、朝礼の後に言ってあったので、新人・浅枝アユミもやってくる。
「すみません、遅れて」と、浅枝が謝らなければならない程、時間は経っていない。「休んでるとこ、ごめんね」と、こっちが謝るような事でもなかったけど。
お昼までに全部の先生に渡しといて……と、俺達2人が会長から言い渡された作業だからである。
「1つ直したいとこあってさ」と、俺は展開されたデータファイルに打ち直しを始めた所、側で浅枝がぼんやりしている事に気が付いて、「そっちの方、人数分コピってくれる?」と頼んだ。浅枝はどこか緊張した面持ちで、「はい」とお返事。アクエリアスを飲みながら、横目で様子を窺っていると、浅枝はしばらくコピー機を睨んでボタンを押そうとして考え込んで……そこでハッ!と気付いたのは、俺の方だった。「ごめん!コピーカードだ」 上から眺めて一息ついてる場合じゃなかった。
「大丈夫?できる?」
「はい。コンビニと要領は同じですよね」
それも、そうだな。
俺の心配は杞憂に終わり、浅枝は、もうさっそく軽快にコピー機を働かせた。
「こういうのって、メールで送ったりしないんですか?その方が早いのに」
それは俺も考える。
どうしても紙でくれ!と、こだわる頑固な先生も居るので仕方なく、だった。
それを言うと、「居ますよね。そういう変な、こだわりの先生」
浅枝は頷きながら、
「生徒会みたいな雑用は女子向きだからって、決めつけたりとか」
「そんな、はっきり言う?」
浅枝は、「はい」と頷いた。
「そう言われて書記に推薦されたんです」と、頬を膨らませる。
「男子は雑だから、雑用が雑になる。それで余計な仕事が増える。だから女子がいいって、フォローにもならない自論を展開してました、ウチの担任」
……ゴメンな、男子で。雑で。
「すいません。生徒会を雑用なんて。聞いた事そのまんま言っちゃった」
そっちを謝るか。
確か、1組。そして吹奏楽部の次期部長と目されている。俺よりも少し背が低い。だが、男子としてそれだけあれば十分だろう。ひょろっとした体型。顔がやけに小さい。その目はいつも神経質そうにキョロキョロと動いて、獲物を探すカマキリを思わせる。周囲を窺って、敵は居ない……あるいは、敵にならない奴らばかりだと認識した途端、その態度は豹変するのだが。
吉森先生の目の前の席に、これ見よがしにドカッと居座り、さっそく挑戦的な態度で、「この大学の過去問、塾でやったばっかりなんですが」と、プリントをつまむ。「同じ所なんて、やる気が出ませんが」と、自分の都合をひけらかした。冷たい空気が辺りを包む。重森は空気を全く読まない。
「気持ちは分かるけど、復習だと思ってやってみて」と、先生は苦笑いで苛立ちを抑える。
教室中、淀んだ空気が流れた。
「……永田が居なくてよかったな」
黒川が、俺ら周辺にだけ聞こえるように呟く。吹奏楽部とバスケ部が犬猿の仲という所にもってきて、暴れ者の永田と陰気な重森とは、もうそれだけで水と油だ。
永田は別の選択授業を選んだ。というか、お互いにそこは牽制しあって、別々の道を。というか、重森の方が格段に成績がいいので、このジャンルにおいて永田は敵ではない。だから自動的に離れる事ができたと言える。
「僕らと一緒でさ、先輩も、ずっと悩まされてきたんだろうな」
バスケ部と吹奏楽部の因縁の戦い。そんな歴史に思いを馳せて、ノリがしみじみと頷いた。
「それも沢村が会長になるまでの我慢だろ。壁に口と権力でもってさ」
黒川の嫌味は別として、「俺は会長選出るって決めてないけど。というか、やらねーよ」
そこだけは言っておきたい。
「問5の因数分解、オレ当たりそうだし。ちょい!ツブ子、やって」
「ノリくーん、答え書いてあげるね♪」と、右川は黒川を無視した。
「右川さん、一歩遅かった。洋士が終わってたから、それ見てもう書いたよ」
「え、俺の?いつの間に。てゆうか、自信ないよ」
その時間、当たる順番に狂いが生じて、問題は黒川には当たらないまま授業は終わった。それなら何の文句も無いはずだが、「何だよぉ。せっかくやったのにさ」と、何故か立ちあがってまで、吉森先生に噛みついている。ノリと右川が、顔を見合せて、ククク♪と笑った。そこからまたノリ経由で、俺に紙が回って来る。
「あのさ、別に俺を仲間に入れてくれなくても、いいんだって」
これはノリ的に、どういう気の遣いようなのか。
成り行き上、仕方なく開いて見るけど。
〝黒ちゃんはツンデレ♪好きな女には素直になれないタイプ♪〟とある。
そこに別のグループからだと、これまた別の紙が回って来た。それを何の確認もなく、黒川が開く。
クッ!と笑って、俺の元に回してきた。「だから、俺にはいいって」
成り行き上、仕方なく開いて見るけど。
〝永田に彼女デキた (゜-゜) 1年のバスケのコ。〝ともちん〟に似てるんだって (#^.^#) 〟
思わず声を上げそうになった。(相手が、ともちんに似てるから、ではない)
これが本当なら、神が居るかもしれない。永田は出来たばかりの彼女に夢中。吹奏楽部なんて、もうどうでもいい、何でもない事だと……あのバカが落ち着いてくれるなら、言う事ない。
選択授業が終わって昼休み。
さっそく生徒会室に飛び込んで、立ち上げたパソコンから予算委員会議事録を出力していた。「お昼にコピーして配るから」と、朝礼の後に言ってあったので、新人・浅枝アユミもやってくる。
「すみません、遅れて」と、浅枝が謝らなければならない程、時間は経っていない。「休んでるとこ、ごめんね」と、こっちが謝るような事でもなかったけど。
お昼までに全部の先生に渡しといて……と、俺達2人が会長から言い渡された作業だからである。
「1つ直したいとこあってさ」と、俺は展開されたデータファイルに打ち直しを始めた所、側で浅枝がぼんやりしている事に気が付いて、「そっちの方、人数分コピってくれる?」と頼んだ。浅枝はどこか緊張した面持ちで、「はい」とお返事。アクエリアスを飲みながら、横目で様子を窺っていると、浅枝はしばらくコピー機を睨んでボタンを押そうとして考え込んで……そこでハッ!と気付いたのは、俺の方だった。「ごめん!コピーカードだ」 上から眺めて一息ついてる場合じゃなかった。
「大丈夫?できる?」
「はい。コンビニと要領は同じですよね」
それも、そうだな。
俺の心配は杞憂に終わり、浅枝は、もうさっそく軽快にコピー機を働かせた。
「こういうのって、メールで送ったりしないんですか?その方が早いのに」
それは俺も考える。
どうしても紙でくれ!と、こだわる頑固な先生も居るので仕方なく、だった。
それを言うと、「居ますよね。そういう変な、こだわりの先生」
浅枝は頷きながら、
「生徒会みたいな雑用は女子向きだからって、決めつけたりとか」
「そんな、はっきり言う?」
浅枝は、「はい」と頷いた。
「そう言われて書記に推薦されたんです」と、頬を膨らませる。
「男子は雑だから、雑用が雑になる。それで余計な仕事が増える。だから女子がいいって、フォローにもならない自論を展開してました、ウチの担任」
……ゴメンな、男子で。雑で。
「すいません。生徒会を雑用なんて。聞いた事そのまんま言っちゃった」
そっちを謝るか。