甘え下手の『・・・』
駅まで並んで歩く。会話はない。でも心地よい。

駅につくと、

「…送って行くか?」

私は首をふった。筧くんの家とは会社から距離的には変わらないが逆方向だ。いつも同期会の後だって一人で帰る。あの甘い言葉を言われた同期会の後でさえも私は『送るか?』と聞かれたのに断ったのだ。本当はもう少し一緒にいたいって思っていたのに。

「今日は楽しかった。結局奢らせてもらえなかったけど」

拗ねて言う私に

「オレ主任だから。そこそこ稼いでるんで」

「じゃ、銀座で寿司を…」

「いいぞ、回るのだったらな」

「あはっ。その方が肩肘はらなくていいね」

筧くんとだったら、どんなところでもきっとおいしいし楽しい。そう考える私はもう…

「相沢、ゆっくりでいいぞ」

想いがはっきりと形を見せてきはじめた私だけど

「慎重になるのは悪いことじゃない。お前らしいしそれでいい」

「筧くん…」

「ちゃんとわかってるから」


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