甘え下手の『・・・』
「瑞希は臆病なだけだね」

いつも表情がいろいろ変わってかわいい真由香が見せた冷たい顔に私は何も言えないでいた。

「瑞希がウジウジしている間にあーゆう風に筧くんは他の子とどっかに行っちゃうよ」

筧くんと今井さんが歩いていった方向を顎でさしながら真由香は続けた。

「瑞希は仕事も生活もしっかりしてる。それは認める。元カレに浮気された上にひどい言い訳されて傷付いてるのもちゃんとわかってる。だけど…」

途中で息を吸い込んだ真由香。私は次の言葉が出てくるのを待って息を止めてしまう。

「瑞希はそれを言い訳にして筧くんを傷つけるの?」

本当に息が止まってしまった気がした。

「素直になれないだとか甘えるのが苦手だとそんなの分かりきってる事でしょ?それでも瑞希がいいって、待つ、まで言ってくれてるんだよ、筧くんは」

真由香の声が頭と心に鋭く突き刺さる。

「大切なものは自分でちゃんと掴まなきゃダメなんだよ。離してしまったら後悔するよ」

『瑞希に後悔してほしくない』

そう言って真由香は私の横を通りすぎていった。



< 37 / 73 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop