甘え下手の『・・・』
カタログの見本が入ったダンボールを受付から受け取り、エレベーターに向かうと、ちょうど扉が閉まろうとしていた。

「すみません、乗りまーす!」

ギリギリにすべりこむ。

「……よぉ…」

『開』のボタンを押しながらこちらをみていたのは筧くん。

「あっ、ありがとう…」

戸惑っていると『何階?』と聞かれ、販促部のある階数をいうと、扉がしまった。

そう言えば、あれから初めてだ。こうやって二人きりになるのは。そう意識してしまうと胸がドキドキしてきてしまった。

「…重そうだな?持つぞ?」

斜め上から落ちてくる、ぶっきらぼうだけど優しく感じる低い声に心臓がまた跳ねたけれど

「うん、大丈夫。ありがとね」

ダンボールを抱え直しながら答えたら、

「…でた、『大丈夫』」

筧くんはそう言って小さく笑った。

「…何よ、どうせ可愛げないですよ」

バカにされたようで、口を尖らし、ふんっとソッポを向く。これが可愛げないのになぁ。



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