月夜の涙
私は次の授業の準備を進める。
「伊澤さん。」
「ん?」
私は司馬君を見る。彼は少し申し訳なさそうにお願いをしてくる。
「あのさ。歴史の資料集見せてくんない?まだ届いてないんだ。」
「いいよ!日本史選択してるんだ!意外だね!私はてっきり地理の方かと思ってた!」
彼の見た目からだろうか。日本史っていう感じはしない。どちらかというと地理とか世界史とか選んでそうな感じだ。
「まあ、地理も嫌いじゃないけど。日本史の方が好きかな。日本の歴史は面白くない?神話なんて妙に道徳観念を意識させるし。」
「わかるかも!私もね日本の神話とか民話見て、なんかこの夫婦喧嘩怖い!とか思っちゃうから!」
「ああ、もしかして伊奘諾と伊邪那美の奴?あれは怖いね。」
「えー?そうかな。私はあの男許せないよ!約束破るなんて最低じゃない!?」
私は司馬君と机を合わせて資料集を真ん中におく。
「まあ、そうだけど。毎日千人?だっけ。殺してやるー!ってのはひどいと思うな。関係ない人が巻き込まれてるし」
「…あー。確かに。」
私は納得した。にしても本当に意外だ。気があうとは思わなかった。
「あれ?机を合わせてどうしたの?」
「伊澤さんに資料集をみせてもらうんだ。まだ届いていないらしくて。」
朔は椅子に座り、水筒を鞄から取り出した。
「そうなんだ。」
朔は私の方を見る。
「楽しそうだね。光。」
「聞いて!朔!司馬君、神話を知ってるんだよ!私、なかなか神話知ってる人に会ったことないからもうとても嬉しくて!」
朔は私を見てにこやかに微笑んだ。
「よかったね。光。」
「うん!」
朔はお茶を飲み始める。
「生徒会だっけ…。お疲れ様。白石。」
「ありがとう。あ、そうだ。はい、これ。」
朔は髪を取り出して渡した。
「?何?これ。…部活希望?」
「うん。そう。この学校、一応出す決まりがあるんだ。さっき先生…担任の小野寺先生に頼まれてね。まあ、形だけだし、入りたくなかったら帰宅部を書けばいいよ。三年だし、学業優先したい人は大体そうしてるよ。」
「部活…か。」
私は彼の悩んでる様子を見てつい口が開いた。
「ねえ!なら歴研に入らない!?」
「歴研?」
私は身を乗り出して熱くアピールする。
「うん!歴研!日本の色んなことを研究するの!今回のテーマが決まってないから参加しやすいと思う。朔が部長で、私が副部長!他に何人かが所属してて、皆いい子なんだ!」
司馬君は私の話を聞いて興味深いように聞いている。
「光。それは何ていうか…。無理強しているみたいだよ。他の部にも体験させてあげるべきだと思うし。」
「あ、そっか。ごめん。やっぱ、今の無し…。」
「…見学に行きたいな…。」
その言葉を聞いて 私と朔は驚く。
「「えっ……?」」
彼はとても優しい笑みで笑っていた。
「日本の民俗文化に少し興味があるんだ。もちろん、他の部活も見てみるよ。でも、君達がいると楽しい学校生活が遅れそうだし。」
彼がそう言い終わると本鈴が鳴り響いた。私は先生の話を聞きながら彼を見る。長いまつ毛に青い瞳。手は大きいけど指がほっそりと長い。距離が近いせいかいい匂いがする。

ー不思議。なんだか側にいるだけで安心する。

私が安心するのはよっぽどのことだ。朔や冬、両親などの近しい身内それに別の学校にいる親友の羽島乙葉ぐらいだ。

「それでこの時の政府の反応はー」

先生の声もどこか遠くに感じる。私は眠りそうな自分をなんとか奮い立たせる。すると目の前に紙があった。

ー大丈夫?眠たいの?

私は司馬君のほうを見る。彼は私を見てた。

ーなんか、眠たくなってきちゃって。…食べ過ぎかな?

ー寝る?先生に見つかりそうにぬったら起こすよ?


ー平気!私、学校生活で寝ないことを目指してるもん。


ーすごいね。僕は英語なんかしょっちゅう寝てたよ。

私はその文を見て驚く。英語を聞いてて眠くなるって…!?私はわからなさすぎて眠くなるけど。まさか、分かる人でも眠たくなるものなのだろうか。


ー意外。私、なんか司馬君のことで驚くことばかりだ。

私はそう書いて差し出す。

ーえっ?そうなの。僕ってどんなイメージ?

ーなんていうか、朝ごはんは椅子に座って優雅にフランスパンとサラダに紅茶とか食べてそうな感じ。

ーかなり違うね。僕の朝のスタイルは卓袱台に正座して麦ご飯とお水とトンカツを食べてるよ。あとは、梅干しとかかな。

ーえっ!!?うそっ!!


まさかの予想とは斜め上…いや、それ以上だった。






ーーごめん。嘘。朝は食パンだよ。反応が面白くてついからかった。

そう書くと彼は目をそらし窓の方を見つめながら笑っていた。

「そんなに面白かったか?」
先生が声をかけてくる。司馬君は笑い終わったあと先生に向き直る。
「早く謝ったほうがいいですよ?そのままじゃ先生奥さんにやられますよ?例えば…弁当が日の本弁当になるかもしれませんし。」
「俺は母さんを怒らせてないぞ!?むしろ日の本弁当が日常茶飯事なんだ!」
田村が席を立って動揺してる。
「先生、料理はできるんですか?なんか、光みたいに色々とボヤ騒ぎ起こしてそう…。それに前回も自転車の前のタイヤが飛んで行ったとか…。」
朔はしれっという。しかも、私と先生を同じ扱いで。
「待って!?朔、私は最近ボヤ騒ぎなんて起こしてないよ?!」
「最近じゃないけど小六の頃に海老を生で油に放り投げようとしたね。運良く海老は窓から落ちて行ったけど…。」
クラスのみんなが笑い出す。
…確かにそれはした。まさか海老は衣がないと色々と危険だとは思っていなかったんだもん。
「え。海老を揚げるのに衣いるの?」
……先生は目を大きく開けて驚いていた。
「………先生……。何かやらかす前に奥さんに土下座でもなんでもいいんでしてください。」
私達は先生のことをそれ以上笑えなくなってしまった。






今日の授業が一通り終わると私は司馬君と会話をしていた。
「私、あの時驚いちゃった。まさか、先生の話でわらってたなんて。よく両立できるね。」
「ん?ああ。確かに先生のことは笑えたね。けど、僕が笑ったのは伊澤さんが驚いた時の様子だよ。」

ー ……はっ?様子?一体どうなってるんだろ。

「あ、わからないか。えっとね。まず普通の目なんだ。その次はそれに気付いた顔になって、最後は目がくわってひらくんだ。こんな感じ」

彼は私の似顔絵を描く。

ーなんか普通に可愛い絵なんだけど。

私の顔は普通の顔から目が丸くなり最後は猫の顔になってた。

「えっ!!?私、こんな顔してるの!?」
「あ、今なってる。ハハ!」
私は紙の自分を見て驚いていた。
「朔っ!私、こんな顔してるの!?」
私は教科書の選別をしてる朔に紙を見せて問いかける。朔はまじまじと見つめる。

「えっ。そっくりだね。誰が描いたの?」

まさかの幼なじみまでもが認めた。

「僕だよ。彼女を授業中からかった時こんな表情をしてたんだ。」

「絵が上手いね。驚いた。」

「ありがとう。その様子だと今まで知らなかったんだね。ごめん。ばらしちゃって…。」
「…まあ、気にしないで。大学生になる前に本人に言おうか悩んでたから。」
「朔ひどい!!私にもっと早く教えてくれてもいいじゃん!!ねえ、冬!?」
「あー。…ばれちゃったのか。秘密にしてたのに。」
まさかの冬までもがあちら側だった。
私はなんとなく悟った。この人たちは外見とは違い、かなり性格が悪い。と。司馬君はそんな私を見てまた笑う。

ドキッ

私はなぜか変な感情を覚える。何故か狼狽えてしまう。顔が赤くなるのを感じる。胸が何故かモヤモヤするし、居心地が悪い。

「あ、そういえば。先生に学校を案内してもらうよう言われてるんだ。よかったら明日の昼ぐらいに案内してくれない?」
「えっ?えっと…。」
「いーんじゃない?あんた生活委員でしょ?だったらちゃんと転入生が馴染めるように手助けしなさい。」
冬はそう言って私の背中を叩く。

ーえ、でも、あの人だかりだと、誰かが誘ってくれてるだろうし。そんなのわざわざ私がやることでは…

「僕も案内するよ。っていっても、案内するほどでもないから迷惑かもしれないけど」
朔は私の不安を読み取ったのかそう発言する。
「ううん。嬉しいよ。じゃあ、明日はよろしくね。」
そうして私達は机を後ろに下げた後各々の掃除場所に移動した。



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