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人はみんな空っぽで生まれてくるんだよ



人はみんな空っぽで生まれてくるんだよ、と彼は言った


そして歳を重ねていずれはまた空っぽに戻るのね、と わたしは くわえたストローの隙間から答えた。

よくわかってるね、と彼は優しく笑ったみたいだった。

わたしの家には同居している祖母がいる。

空っぽ というフレーズで まるで子どものような彼女のあどけない笑顔や それからおぼつかない話し方なんかが わたしのなかにふと浮かび上がった。


「空っぽからはじまって、また空っぽに戻るのになんの意味があるんだろうね」

ストローで氷だけになったグラスの中身をかき混ぜながら、わたしは独り言のようにぼやいた。

これは私と 子どものような祖母と それから時々、彼のお話である。

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