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リビングには彼女がいた。


クーラーの効かないぬるい部屋で
鼻歌を歌いながら観葉植物に水をあげている丸い背中。


その歌は知らない。
いつもおんなじテンポのおんなじ曲。
だけど曲名を聞いたって、返ってくる答えは毎回違うのだ。

その曲は、ある時は〝初恋〟という曲で ある時は〝許されない愛〟という曲となる。
そんな曲、ないんだろうなと私は勝手に確信している。
きっと作曲したのだろう。



赤のギンガムチェックのエプロンは彼女のお気に入りだった。

腰の後ろで結んだ蝶々結びはいつも縦に歪んでいる。


リビングの窓は曇りガラスだから
陽射しもそう強くはない。
朝の淡い光に透けるのは、彼女の甘いべっ甲色の髪の色。
綺麗な白髪に、セルフカラーをするからそういう色になってしまうと母は呆れたように言うけど、私は彼女の綺麗な髪色がとても好きだった。


パーマもあてているから、それはまるで綿飴のようにふわふわで
つい触れてみたくなってしまう。
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