empty
「朝ちゃんおはよう」

わたしは透明なグラスに
冷蔵庫から出したキンキンに冷えたミネラルウォーターを注ぎながら朝の挨拶をした。


おばあちゃんの名前は朝恵といった。

城島朝恵ーーが本当の名前。

おばあちゃんといっても反応してくれない。なぜなら彼女には、
自分がおばあちゃんであるという自覚がないから。

自分のことを、76歳の女性ではなく、10歳の少女だと思っている。

わたしのことを、孫ではなく、親しい友達と思っている。



「ちーちゃん、おはよう」
朗らかに朝ちゃんが笑った。


まるでゆっくりと花が開くみたいな笑顔だなと思う。

目尻の皺が深い。

笑えば笑うほど、その素敵な皺は深くなる。


ちーちゃん、と 朝ちゃんはわたしをそんな風に呼んだ。

それもここ一年くらいで
それまでは朝ちゃんはわたしのことを 千紗、と呼んでいたし
わたしも朝ちゃんのことを
おばあちゃん、と呼んでいた。


歯が抜け出した朝ちゃんは
わたしのことをチシャ、と呼ぶようになった。

チシャ、も難しくなって
ついには ちーちゃんに落ち着いたというわけだ。



< 4 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop