Dance in the rain
「……チっ」
小さな舌打ちが聞こえて。
翔也が見つめていたのは、玄関の三和土の上、華奢なゴールドのパンプスだった。
誰か……来てるの?
あたしの頭にポンて手を乗せてから、翔也は中へ入っていく。
急いで後を追った。
ドアを開けると——
「お帰りなさい。ずいぶん遅かったのね? もう朝帰りコースかと思ってたわ」
ソファに座っていたスーツ姿の女性が、ノートパソコンから顔を上げた。
20代後半? それとも30代前半くらい?
……誰?
翔也は片手で目を覆うと、まいったな、って感じで天井を仰いだ。
「来るんなら、先に連絡してくれませんか、潤子さん」
ジュンコ、サン?
「あら、だってこの部屋、契約してるの私よ。いつ来ようと、自由じゃないかしら」
キレイに整えられた爪が、鍵をつまんで揺らす。
あぁ……そっか。
あれは、純さんじゃない。潤子さん、だったんだ。
頭のどこかで、誰かがつぶやいた。