Dance in the rain
1. 始まりのrainy day
どうしよう……

あたし、野々宮花梨(ののみやかりん)は、テナントビルの壁にべたってもたれて座り込んだまま、もう何度目かわからないため息をついた。

頭上には、どんよりと重たい空。
今にもぽつりと落ちてきそうな、密度の濃い灰色の雲に埋め尽くされてる。

「あぁもうっ」
汗だくの体にまとわりつく、熱気と湿気をはらんだ空気にうんざりして、あたしは毒づいた。

日差しはないくせに、なんなのよ、ジメジメムシムシっ!
服から水滴しぼれちゃいそう。


あたしはバンクーバーの夏を思い出した。

日差しは暖かくて、風は涼しくて。
まぶしく澄んだ青色が、広大な空にどこまでも続いていた、あの街。
やだな、昨日発ったばっかりなのに、もう懐かしい——

手の中、空港で契約したばかりのスマホに、目を落とした。
さっきまで、非情な友達の言葉を伝えていたそれを、うらめしくにらむ。

——ごめん、まさかほんとに来るとは思わなくて。1か月待ってよ。そしたら帰るから! たぶん。

たぶんてなんだ、たぶん、て。

いきなり来ちゃったあたしが悪い。もちろん、そうだけど。
なんでいきなり中国横断ツアー行く? なぜに、今?
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