Dance in the rain

本番までもう時間もないし。
すぐにでも振り付けを教えてもらえるのかと思っていたあたしに、
久美さんは首を振った。

「コンテンポラリーダンスは、バレエみたいに、ストーリーやルールがあるわけじゃないでしょ。すべての表現は、自由。無限大。大切なのは、『自分の感覚』よ。それを、あなたに感じてもらいたいの」

久美さんがまずあたしにやらせたのは、身体と対話する感覚を取り戻すことだった。

あたしは、いろんなテーマで即興のダンスを踊ることを繰り返した。
その動きを通じて、身体の各パーツ、筋肉や関節にどんな動きができるのか、
身体の中からどんな感情が生まれるのか、感じていく。

そうしているうちに、自分の動きの癖がわかってきて。
あたしはだんだん、身体を解放する感覚をつかみはじめた。


本番用の曲をもらってからも、久美さんはあたしに即興のダンスを求め続けた。
同じ曲、同じテーマと、何通りものダンスで向き合っていく。

喜怒哀楽、感情のひだ。
あたしの中に生まれる意識、感覚、想い。

それらを踊りに落とし込む。
その中から、新しいものを一緒に引き出していく。
そして、表現する。身体一つを使って。

自由に。どこまでも自由に。
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