Dance in the rain
集まってくれた、たくさんの人と握手してハグして、
もみくちゃになっていたあたしは、ぐいって、ひと際強い力に引かれた。

「猫ダンスも、悪くないな」
翔也らしい言葉に苦笑しながら、その腕の中でそっと目を閉じた。

全部、翔也のおかげだよ。
ありがとう——
心の中でつぶやきながら。


「翔也さんっ! 本番始まりますよ! 早くスタンバイお願いしますっ!」
悲鳴みたいなスタッフさんの叫び声がして。
翔也の体が、離れた。

あ……

翔也が、あたしを見る。

「花梨ちゃんっ! ほんっとに素晴らしかったわ!! ほんとによかった! って話はあとにして、早く着替えましょ! 風邪ひいちゃうわ!」

久美さんに右手を引かれて。
差し出したあたしの左手は、空を切った。

「翔也さんっ! 急いでください!!」

翔也がスタッフさんに抱えられるみたいに、離れていく。
何度かあたしを振り返りながら。

その唇が、何か言いたげに動いていたんだけど。
あたしには聞き取ることができなかった。

濁流を流れる葉っぱみたいに、
あたしたちの距離は、瞬く間に広がっていった。
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