Dance in the rain
こっそり奥を見ると、サラッサラの茶髪をかきあげ、お客の持つメニューに顔を寄せる純さんの姿。たぶん、おすすめを聞かれたんだな。
その周りだけ、明らかに空気が違う。
あえて言うなら、ピンク色だ。
常時フロアに出てる純さんの人気は、まあ当然って言えば当然で。
今のところ、断然彼が優勢。
だけど——
「オムライスセット1つです」って告げるあたしに、
キッチンにいたマスターが顔をあげて、「了解」って目元を緩ませた瞬間。
カウンターに座っていた女子たちのレーザービームみたいな視線が、
ズバズバッとあたしに突き刺さった。
う。い、痛いです……。
彼女たちが全員マスター押しだってこと、あたしは知ってる。
——フライパンを豪快に揺する、あの太い腕がたまらないのっ!
ってささやいているのを、聞いたことがある。
どちらも、なかなか譲らないなあ。
広告は一切出してないのに、SNS上ではイケメンスタッフに会える店、って結構噂になってるらしく。
ほぼ毎日、見かける女の子もいるくらい。
もはやその人気は、アイドル並みだ。