Dance in the rain
たった今、通っていった人の群れの中に、知った顔を見つけたから。
どくんどくん……
心臓を押さえながら、あたしは立ち上がって歩き出した。
ああっいけない忘れた!
スーツケースを取りに戻って。
もう一度歩き出す。
お目当てのその人は、すぐに見つかった。
長い足を優雅に動かして、あたしの数メートル先を歩いてる。
後ろ姿は確かに似てる。見間違い、ってことはないよね?
ほんの一瞬だったけど……
でも、大丈夫。間違いない。
だってほら見て。
道行く女の子たちも、彼のことチラ見してる。
バンクーバーにいた時も、そうだった。
彼がお店に入ってくると、みんなざわついて。だからすぐにわかった。
——君も留学生?
絶対、忘れない。あれは……
東京って街に圧倒されて、心細くなっていたせいかもしれない。
あたしは懐かしくてたまらなくて、無我夢中で彼を追った。