Dance in the rain
「ごめんなさいっ! あの、ちょっと通してくださいっ!」
ゴロゴロゴロ……
障害物以外の何物でもないスーツケースを、人波に持ってかれないように必死で引っ張りながら。
どくんどくんて、高鳴る胸を感じながら。
まさか、こんな東京のど真ん中でまた会えるなんて。
これって、どれくらいの確率?
もしかして、夢が砕けちったあたしに、神様が同情してくれたのかな。
こんなラッキー、一つくらいこいつにやるか、可哀想だし、みたいな。
それでもいい。
それでも、もしかして、彼にまた会えたなら。
もしかして……そんな奇跡があったなら。
そしたら、あたしの人生まだまだこれからだって……信じていいかもしれない。
ダンスの夢は破れたけど、もしかしたらこれから別の幸せが待ってる、とか。
ほら例えば、一人の女の子として……
自分勝手な妄想を膨らませながら、あたしは歩いた。