Dance in the rain

足の長さが絶対的に違うせいか、彼の進みは思いがけず速くて、人ごみをすり抜けてどんどん先へ行く。

もう少し、もう少し……

「拓巳さ……っ」


足が、ピタって止まった。

交差点に立っていた女性が、彼に手を振っていた。

ちっちゃな顔に、くるっと丸い、大きな瞳。
ゆるいハーフアップヘアがものすごく色っぽくて、似合ってて。
きれいな、人だった。

そして、シフォンっぽい柔らかそうな白ワンピに包まれた、彼女のお腹は……膨らんでいた。

愛おし気にそのお腹に手をあてて、彼が何かを女性にささやいてる。
女性はおかしそうに笑いながら、彼を見上げて、その手に自分の手を重ねた。

彼女へ、彼女のお腹へ。
彼が注ぐ眼差しはどこまでも甘くて、優しくて。

あたしの心は、パリパリって。砕けた。
薄っぺらい氷みたいに、軽い音を立てながら。
< 7 / 264 >

この作品をシェア

pagetop