私と二人の物語
「で、今日はどうしたんですか?」

私は落ち着いた雰囲気にそう聞いた。

「ああ、この前久しぶりに会ったのもあるけど、ちょっとお礼が言いたくてさ」

「お礼?」

私は首を傾げた。

「ああ。この前、清水のおばさんから偶然、お前の名前を聞いたんだ」

「え?清水のって?あの清水家の奥様ですか?」

「そうそう、その清水家。あの箱、開けたって?」

「え?何で先輩が奥様からその話を聞くんですか?」

「実は、俺のお祖父さんがおばさんのお母さんの旦那さんの弟なんだ」

まるで呪文。

気を取り直す。

「えっと、先輩のお祖父さんが、奥様のお母さん、えっと清水さちさんで、その旦那さんって…あ!旧姓北山慎之介さん!」

「そうそう。その慎之介が俺のお祖父さんのお兄さんね」

「わかりました」

私はうんうんと大きく頷いた。

「当時は家を継ぐはずの長男が他家の婿養子だから、かなり揉めたらしいよ。うちもそれなりの家柄だったんでね」

「そうなんですか…」

私はあの手紙から感じた愛の深さを、さらに実感した。

「あの箱は俺も一度開けようとしたんだけど、開けられなかったんだよな。それを開けたのが武井病院の娘さんって聞いたから、それ俺の後輩だよって盛り上がっちゃってさ」

「それでお礼ですか」

「ああ、おばさんもあらためて伝えておいてって言ってたからさ」

「そうなんだ。わかりました」

会おうと言われた理由がわかって、少し安心したのと、少し寂しい思いがした。

だって、先輩には彼女がいるし。

話がひと段落したところで、ブレンドとガレットが来た。

やっぱりどちらもすごく美味しかった。

先輩が意味もなく選ぶ店じゃなかった。
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