私と二人の物語
覚悟していたのに、北山先輩と会って、実際にはかなりココロが揺れた。

このまま、悟に会えるか自信がなかった。

でも、それは自分が選んだことだと、ココロに言い聞かせて三宮に向かった。

とりあえず、いつものように昼ご飯は食べて行くことにした。


「悟」

「いらっしゃい」

悟は仕事のイラストを描いていたので、少し救われた。

「何描いてるの?」

「文庫本の表紙」

私は彼の横から覗き込んだ。

それは風景でもモノでもなく、抽象的な絵だった。

「恋愛もの?」

「なんでそう思った?」

「なんとなく」

「合ってる。そのとおり」

「やっぱりね」

私は少し鼻高々な雰囲気で微笑んだ。

「美緒のその表情、いいね」

「え?」

「元々凛とした顔立ちに微笑み。素敵だよ」

「や、ちょっと、恥ずかしいじゃない」

私は不意打ちを食らって慌てた。

悟はそれを見て笑っていた。

「もう!」

私はくるっと背を向けると、珈琲を淹れにキッチンへ行った。

顔が火照っているのがわかった。

悟があんなこと言うとは思わなかった。

でも、ケトルを火に掛けながら、クスッと笑ってしまった。
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