私と二人の物語
翌日、会場はポートアイランドにあるので三ノ宮駅前広場で待ち合わせた。

近所なのが気になったけど、この時間、悟は家にいるはずだった。

「武井!」

先輩が、先に来ていた私に手を振りながらやってきた。

私は、手を振り掛けたけど、また頭がズキンとしたし、やっぱりその手は下ろして、軽く頭を下げた。

先輩の服装はこの前より少しラフだった。

「今日は誘ってもらってありがとうございます」

「いや、moonsproutのチケットもらった時、これは武井を誘うしかないって思ってさ。おまえ、好きだったろ?」

「あ、はい」

先輩の裏のない台詞と、そのラフな服装に戸惑った。

「ありがとうございます」

また頭を下げた。

「じゃあ、会場まで混むだろうから、早く行こう」

「はい」

私は率先して歩く先輩の後を付いていった。

私は、その背中を見ながら、次々と心の逃げ場を塞がれていくような感覚を受けていた。

そして逆に、少しずつ、あの頃の想いが心に染み込んできた。

今見える先輩の背中に、思い出があった。
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