私と二人の物語
『美緒』


突然、脳裏に悟の笑顔が浮かんだ。


あ……


私、何でここにいるんだろう…


(やっぱり、だめだ…)


私は手を引っ込めた。

先輩はまるでそんなことに気付いている気配はなかった。


「先輩」

少し前を歩く彼に声を掛けた。

「ん?どうした?」

「あの…」

「そう言えば武井、moonsproutのライブ行ったことあるの?」

「あ、いえ…」

「じゃあ、誘ってよかった?」

「あ、…はい」

私は顔を笑顔にして、答えた。

「で?」


(moonsproutのライブに行くだけ)


「いえ、何でもないです」

「もしかして…」

「ちがいます!」

私は即座に否定した。

「さあ、行きましょ」

私は先輩の背中を軽く両手で押した。

ドクン…

(触れた…)

私は、


(moonsproutのライブに行くだけ)


心の中で、それを繰り返した。
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