私と二人の物語
私は軽く頷いた後、彼のまだ何か言いたげな雰囲気に気が付いた。

少し首を傾げると、

「さっきも聞いたけど、美緒は、今、ちゃんと幸せなの?」

と、彼は言った。

最初の時と少し言い方が違っていた。

「幸せかぁ…」

一瞬、今の自分を客観的にみてどうなのかと考えたりしてみたけど、

「あ…」

彼の言ったコトの意味がわかった。

「今はというか、2年前からも、誰とも付き合ってないよ」

私は指輪のない左手を見せた。

「そっか」

彼は聞きたかったコトが聞けてホッとしているようだった。

「彼氏がいたら悪いと思ってさ」

「そうだね。いたら…ね」

私は少し苦笑した。

「それに、その明るい感じ、変わってなくてよかった」

「え、そ、そう?」

「ああ、変わってない」

私は少し俯き気味に笑った。

「じゃあ、明日な」

悟はちょうどやって来たこげ茶色の電車に乗った。

私は、降りてくる人を避けて一歩下がった場所で、軽く手を振った。

そして、ドアが閉まるまでの間、お互い、今が実感できない感じで虚ろに見つめ合っていた。

やっとドアが閉まった時、少し現実に戻った。

彼はドアの向こうですごく嬉しそうに笑った。

そして、なぜか私も。



電車を見送ると、自分の馬鹿さ加減にあきれた。

私も三宮に行くつもりだったのに、彼を見送ってしまった。

それに、メアドやケータイ番号を聞くのも気付かなかった。

彼も2年前のは知っているだろうけど、それと今のは違う。

今さら同じ方向には行けなかった。

でも、それで良かったと思った。

別に三宮に用事があったわけじゃない。

私には、今、することがない。
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