私と二人の物語
「あ、はい。たまたまです。チケットもらった時、彼女が好きだったのを思い出したので」

先輩が空気を読んで、そう言ってくれた。

「よかった!じゃあ、今度からは僕と一緒に行きませんか?チケットは僕が取りますから」

篠田さんが私を見た。

「え、でも…」

私は思わず先輩を見た。

先輩もちょっと戸惑っていた。

「気にしないで。僕もそっちの方が嬉しいし、院長も喜んでくれると思いますよ」

「篠田さん…」

その言い方に、先輩は、表情を曇らせた。

「そっか、そういうことですか…」

「ええ、そういうことです」

篠田さんがはっきりと言った。

「じゃあ、武井、俺帰るわ」

「先輩…」

彼は軽く手を挙げると、口元に笑みを作って去っていった。

私はその背中をしばらく見つめていた。
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