私と二人の物語
店員が側を離れると、私は彼を見た。

「篠田さんは、いつも優しいですよね」

「そうですか?」

「はい。いつも」

私はテーブルの上に置かれた彼の手を見つめた。

それなりに男性の手だけど、難しい外科手術をやり遂げる繊細な指先。

とてもきれいだと思った。

彼は、私のその視線に誘われて、自分の手先を見た。

そして、その視線を邪魔しないように、手はそのままに、何かを考えていた。

「篠田さん?」

彼は、私の声に少し反応したけど、まだ何かを考えていた。

口元が動きかけて止まるような、そんな感じで。

私は少し間が持たなくて、何かを言おうと思った時だった。
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