私と二人の物語
「後悔しているんですよ」

と、彼が言った。

「え?」

私が彼を見ると、篠田さんはゆっくりと視線を合わせた。

「婚約しておきながら、私は彼女に何もできていなかった」

急にそんなことを言われて戸惑った。

「そ、それは…」

形式上だと言い掛けたけど、ふと気が付いて言葉に詰まった。

「もしかして…、篠田さんは本当に姉を、好きだったんですか?」

彼は、少し視線を止めた。

「お姉さんをですか…」

そして、微妙に表情を変えて、

「…そうじゃないと、失礼じゃないですか?」

と、言った。

「篠田さん…」

言い方は素っ気なかった。


でも、その想いが見えてしまった。
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