私と二人の物語
「あ、好江さん」

「はい?」

彼女は私に呼びとめられてその少し太めの身体をくるりと回した。

私はその仕草が可愛くて好きだった。

今のはわざとじゃないけど。

「あのね、…森山悟って聞いたことがある?」

「森山、悟さんですか?」

彼女は少し記憶を探っていたけど、特に思い当たらなかったみたいだった。

「すみません、お役に立てずに」

「ううん。気にしないで」

私はそこで会話を切るように、手を軽く振りながら右手の階段を上った。

上ったところで、そっと下を覗くと、好江さんはもう応接間に入っていた。

そっか、本当に言ってないみたい。

好江さんは私たち姉妹を小さな頃から面倒を見てくれている。

両親にも話せないコトを相談することもあった。

そして、彼女はそれをちゃんと秘密にしておいてくれる。

笑う時はケラケラ笑うし、悲しい時はどーっと涙を流す。

もうすぐ還暦。

そんな好江さんにも悟のことは話してなかったらしい。

私はもう一度部屋の中を確認してみることにした。
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