私と二人の物語
ダイニングに行くと、父と母が既に食事をしていた。

父と同じく医者である母も、いつの間にか帰っていたようだ。

父と同じ病院に勤めながらローテーションの関係で一緒に食事となるのは意外と珍しい。

二人は私をチラリと見た。

「ごめんなさい」

「好江さんがせっかく作ってくれたんだから温かいうちに食べなさい」

「はい」

母は何事もないように言った。

母は少し知的な雰囲気。

病院の運営よりも医者であることを優先するタイプ。

しかも外科医だから、夜中でも連絡が入ると躊躇なく飛び出して行く。

スレンダーな容姿で整った顔はまるで55才に見えない。

実際に空いた時間にはジムや水泳に通って鍛えている。

同い年の父も最近はお腹が出てるけど、若い頃はイケメンだったらしい。

今でも顔だけ見れば、面影はある。

父は医者であることより理事長であることを優先している。

病院を守らなければという思いが強すぎて必死なのもわかる。

だから、2年前の事故が起きた。

それまで子供よりも病院が優先だった父も、さすがにショックだったらしい。

あの事故以来、私にいろいろ言わなくなった。

それだけでなく、やっぱり、少し腫れものを触る感じと言った方が合ってると思う。

姉妹で一字違いの名前を呼ばなくなったことからもわかる。

それに比べて母は、逆に態度があまり変わらない。

そんなところに苦笑するけど、ほっとする部分もある。

あ、でも、その母でさえ私の名前を呼ばずに「あなたは」とか言うよね…


二人とも子供達への愛が薄い分、好江さんへ子育てを任せ、そして全幅の信頼を置いている。

信頼してるのは私達姉妹も同じだった。

そして、今は私が。


そんな感じなので、やりたいコトが見つからないまま大学を卒業してしまった私は、事故のこともあったし、特に今は仕事に就いていない。

お花やお茶のお稽古も今はほとんど行ってない。
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