私と二人の物語
トントン。

「はい」

ドアを開けると好江さんが、少し笑顔で「篠田さんがお見えです」と言った。

「え?あ、はい」

私は好江さんと一緒に降りていった。

すると、篠田さんは玄関で立って待っていた。

「外でお茶でもいかがです?」

「あ、そういうことですか。はい」

私は素直に返事した。

私が塞ぎ込んでいるとでも、父か誰かが伝えたのだろう。

好江さんも、それを救いだと思っているみたいだった。


篠田さんの車に乗ると、彼は何も聞かずに走らせ始めた。

「どこへ行くんですか?」

「山の上でもと思ってますが、いいですか?」

「六甲山ですか?」

「ええ。他がいいですか?」

「いえ、いいですね」

私は笑顔を作った。


六甲山…

お茶をするなら、多分、あの展望テラス。

きっと、悟との思い出が上書きされる。

それでも、私がその記憶を残してはいけないのは、罰だと思った。
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