私と二人の物語
そのパンフの一つを手に取って、開いた時だった。

そこに描かれていたイラストを見て私は息を飲んだ。

「どうかしました?」

「あ、い、いえ…」

篠田さんを前にして、自分でコントロールできないくらい動揺していた。

「あの、えっと…、あ、そうだ!美味しいカヌレ食べたくありませんか?」

「え?カヌレですか?」

「はい、坂の下に美味しい店があって、そろそろお茶にしたいし、私、買ってきます」

「あ、いや…」

私の雰囲気に篠田さんも戸惑っていた。

「近いんで、すぐに買ってきますから」

私はそれを無視して、立ち上がった。

「えっと、それじゃ、車で一緒に行きましょう」

彼も立ち上がろうとした。

「あ、ほんと近いんで大丈夫です。待っててください」

私は、それを手でおさえて、すぐに飛び出した。


玄関を出て、ドアを閉めると、胸を押さえた。

完全に変だったけど、あのまま、篠田さんの前にはいられなかった。

「…仕方ない」

私はカヌレを買いに少し速足で坂を下った。
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